「君に届け」と「彼氏彼女の事情」

今大人気☆の「君に届け」を読んでいたらなんだか主人公のライバルくるみちゃんにとても見覚えがあったものだから、記憶を探ってみたらそれは「彼氏彼女の事情」のつばさちゃんでした。つばさちゃんもくるみちゃんと同様、主人公と同じ人が好きで、しかも主人公よりも以前からずっと好き。二人とも美人キャラですし、当初主人公にいやがらせを繰り返すところもよく似ています。あと、主人公に集団でいやがらせをしようとする他クラスメイトにタンカ切るといった、ただのいやな子では決してないところも同じです。
よく考えてみると「君に届け」と「彼氏彼女の事情」は物語自体もよく似ています。「君に届け」における主人公・爽子は、見た目の陰気さからクラスに溶け込むことができないでいます。友達もいない彼女ですが根が明るいこともあり、風早やちづやあやのに背中を押されて、少しずつクラスに溶け込み始めます。物語はそうした爽子の、青春のやり直しを丁寧に追っていて、「クラスの「みんな」に入ること」「友達を作ること」「友達に本音で話すこと」「人を好きになること」「ライバルと向き合うこと」といった、誰でも一度は経験するような人との関係性に立ち向かっていくのです。「君に届け」のその普遍的なテーマは、主人公が「根はポジティブ」「素直」「やさしい」という非現実的ともいえるほどのいい人柄を持っていることで、特別な輝きをはなちました。「彼氏彼女の事情」では、テーマはほとんど同じです。主人公・宮沢は、ほめられたいと思うあまり、ありのままの自分を隠し、完璧優等生を演じ続けていました。しかし似た境遇の有馬と出会うことで、自分に素直になっていこうと決めます。そしてありのままの自分に戻った宮沢は、みんなが経験するあたりまえの青春を、いちからやり直し始めるのです。
「クラスの「みんな」に入ること」
「友達を作ること」「友達に本音で話すこと」
「人を好きになること」「ライバルと向き合うこと」
二つの作品ではどちらも普遍的なテーマが扱われていて、登場人物がある意味突飛である分、テーマに共感ポイントが置かれています。以前も「君に届け」をこのブログで取り上げた際、「共感」の重要性を書いたと思いますが、多くの作品が登場人物に人間くささをもたらせることで読者に共感してもらおうとする中、こうした人物への共感をあきらめ、代わりに普遍的テーマを扱い、この二作品は成功しました。私個人としては、つい打算的になってしまったり、人の気持ちを無視してしまったりといった、いわゆる「私ってひどい子……」的などろくさい心情で共感をあおるよりも、テーマを普遍的にするほうがずっとすがすがしい演出だと思います。
君に届け」はこれまでクラスで浮いてきた爽子の青春のやり直し物語、「彼氏彼女の事情」は見栄のために演技ばかりをして本音で生きてこなかった宮沢の青春のやり直し物語でした。ただ、「彼氏彼女の事情」は宮沢がある程度青春を謳歌するようになると、いわゆる「有馬編」と呼ばれるとてつもなくダーク&ドラマチックな物語に変貌していったので、ある程度話が進行した「君に届け」がこれからどう変貌していくのか不安でもあり楽しみでもあります。