言葉と、言葉の形について。

言葉というのは言葉単体では本当は存在ができない。声とともに、波としてこの世界に流れ込むか、文字とともに、結晶としてこの世界に流れ込むか。どちらにしても、声や文字の形によって言葉は、言葉以上の何かに変容するし、その影響を無視することはできません。
  
私は詩を書く際、それが縦書きなのか、横書きなのか、散文の形だとしてもどれぐらいの長さで改行していくのかを、コントロールしなければならないと思っています。それは、読む人には言葉ではなく文字として届き、その文字の呼吸が、言葉の呼吸として捉えられていくからです。言葉を言葉のみで見つめることができるのはもしかすれば書いている本人だけかもしれず、それもまた書くという瞬間にしか捉えられない景色なのかもしれません。だからこそ、形となって現れたとき新たに生じた「呼吸」に、私は気づくことができるのかもしれない。本や雑誌に詩を載せてもらったことで、デザインというものが、おおきく詩の呼吸を変えることも何度も経験し、そしてそうした呼吸が、私が捉えていたよりずっとはっきりと言葉を捉える瞬間もありました。デザインは、他者の手によるものです。私は言葉を軸にして、その言葉をどう外へと、壊すことなく出していくかを考えていますが、デザイナーは、外から見る人たちの視線の動き、そして彼らの身体の呼吸を元に、形を作り出します。私が内から外を考えるのとは逆で、彼らは外から内を見ている。通常の詩のデザインは、読みやすさや作者意図を前提に行われたり、掲載場所や色や形式が限られた状況でのものが多く、私はそうした制限の中にあるデザインもとても好きなのですが、もしも言葉とデザインそれぞれが、全ベクトルにおいて自由に、最大限に発揮されたとき、何が現れるのかを知りたくなりました。
  
この夏に群馬の太田市美術館の展覧会の一部として、詩とグラフィックデザインの展示を行います。私が尊敬するグラフィックデザイナーの、祖父江慎さん・服部一成さん・佐々木俊さんに、展示作品としての詩のデザインをお願いしました。言葉が文字という形となるときの変容が、呼吸が、展示室に満ちるものになると思います。それは同時に、言葉が言葉のみであった瞬間も、浮き上がらせるものかもしれません。ぜひ、見逃さないでくださいね。
  

本と美術の展覧会vol.2「ことばをながめる、ことばとあるく——詩と歌のある風景」
会場:太田市美術館・図書館 展示室1、2、3、スロープ
会期:2018年8月7日(火)~10月21日(日)
開催時間:午前10時~午後6時(展示室への入場は午後5時30分まで)
休館日:月曜日(ただし9月17日、24日、10月8日は祝休日のため開館、翌日火曜日休館)
出品作家:最果タヒ、佐々木俊、祖父江慎、服部一成、管啓次郎、佐々木愛、大槻三好・松枝、惣田紗希(9名)
http://www.artmuseumlibraryota.jp/post_artmuseum/2288.html