POPとは出し抜くことと見つけたり。(575)

なんだかまた仕事の話を書いてしまって退屈だったので全部消して「億万」の話をしようと思う。億万。この言葉はやばいと思うのですがみなさまいかがお過ごしですか。だって意味が通ってない。もちろん億万なんて単位はない。簡単に考えれば、「千万」とかの千が億に入れ替わったってことだけれど、つまり億万とは、一億×一万ということ。あ、つまり兆だわ。でも、億万の方が言葉として強すぎる。なんというか、思い切りがよすぎるバカみたいな、絶対勝てないかんじがします。誰が最初につくった言葉なのだろう。億万長者とかあるから、結構昔からの言葉なんだろう。もちろん辞書に、億万は「たくさんある」みたいな意味だって書いていあるのはわかってますよ。でも、それでも、変じゃないですか? なんで万億じゃないの? 百万石とかいう言葉もあったんだから、千万とかでもよかったんじゃないの? なんで飛び越えて億万なの? 数学のルールをどうしてそんな無視したの? 熟語の中で掛け算やってるのはどうして? 兆って言えばいいのにどうして? ああ……言葉を作った人のところまで飛んで行って聞いてみたい。そしてそれよりすごいのは、そんな意味不明な言葉をさらに「億千万」とリライトしてしまった人物です。さらに千を…! 物理法則を無視しすぎだろ! これ、最初に書いたのは誰なんでしょう。阿久悠でしょうか。(郷ひろみの2億4千万の瞳の歌詞に出てきます)でも、だとしたらさすがすぎて震えるなあ。
   
私はなんていうか思い切りがよくそのままの勢いでゴールまでつっきったような作品が好きです。去年の天才てれびくんのエンディングテーマ「にっぽんなんばあず」はとんでも歌詞が素晴らしくて、ああこういうのを書けるのが本物だ……(なんのだ)と思ったものです。ではちょっと歌詞を引用してみましょう。

1本はポだけど
2本はホ
3本はボだけど
4本はホ
5本6本7本もホ
でも8本になるとポ

はい。なにこれ、って言いたいのはわかります。でも、私はこういうのに憧れるんです。なんてシンプル。誰でも楽しい。誰でも覚える。そしてこれで歌にしてしまうという視点だけが異質。あああああ!こういうの書ける人間になりたい!(ちなみにこれ、作詞作曲石野卓球です。さすがとしか言えない)誰でもかけそうだし、誰でも思いつきそうだし、すっげえしょうもない、と言いたければ言える。そもそもこのしょうもなさ、とはシンプルである証明みたいなもの。だれでも思いつきそうというのも、だれでも共有している情報しか使っていない、つまりめちゃくちゃポップだという証拠。誰でもかけそうなのは、それぐらい言葉がシンプルに削ぎ落とされて、情報だけを100%の純度で伝えている証拠。(だって、これ、「あ、『本』っていう言葉の読みについて歌ってるのか」ってなんとなく読んでたら気付けるのがすごい。「ああ『本』の読み方って変だよね〜」みたいな説明歌詞などどこにもなくても、ぽとかほとか言ってたらだんだん伝わってくるという仕組みです。で、だからこそ気付けた時のちょっとしたアハ体験(使い方正しいかは知りません)があるわけで、それが楽しさに寄与している。説明しないからこそのおもしろみがここにはあるんですよね。子供とか、だんだん言葉覚えていって、番組が進むにしたがって歌詞の意味に気付いちゃったら嬉しいだろうなあ。)なによりも、もしNHKから依頼を受けて、子供番組のエンディングテーマとだけ言われて、なにも思いついていないまっしろな状態から、「そういえば1本とか2本って、ほとかぽとかぼとかばらばらだよね、それを歌にしてみよう」とかに思い至る人がこの世にどれだけいるんだろうか。しかもその思いつきをここまでシンプルにわかりやすく、楽しく歌詞にできるひとが、どれだけ。簡単そうで、自分でも思いつきそうで、でもまだ誰もそんなものを歌詞にしていなかった、そんなテーマを見つけ出せるということは、結局歴史上に生まれてきた人類を全員出し抜かなくちゃいけないってことで、それは、やっぱり最強の天才なんじゃないでしょうか。POPとは出し抜くことと見つけたり…。(終わり方がよくわからなくなったとき、私は変な575をつぶやき終わらせるくせがあります)
   

にっぽん・なんばあず

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