自転車の末裔

なぜ私のサドルが無いのだろうか。サドルが盗まれていたら、それは盗人がサドルを持ち合わせていないことを意味していた。盗んだ人がサドルを部屋に飾りたいわけがなかろうし、ないからほしくて盗ったのだ、というのがすぐわかるのはサドルぐらいだった。サドルを盗んだ人はまた、盗まれたから盗んだのだろうか。破けていたから盗んだのだろうか。ネコが気に入ってしまって「ちょうだい」というからあげたのだろうか。真意はわからない。わかっていたら追いかけてとび蹴りをして奪い返すであろう。
先生は言った。サドルを盗まれて失った人の中には、また別の人から自分も盗んで、補おうと考える人がいます。そしてその人に盗まれた人も、また別の人から盗んでしまおうと思うかもしれません。「政府がサドルを供給すればいいのです。満足に。」すると先生は言いました。そしたら二つ三つ、ほしくなる人が生まれるかもしれませんね。
それは戦争の縮図ですと、先生はどうしても帰結させたいらしかった。