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幻のない部屋

大好きな作品を作った人がこの世から消えてしまうと、なんだかすべて幻だった気がしてしまう。でも、ちゃんと本棚にはその人が描いた本が残っていて、明日というものも残っていて、窓を開けたらまだちゃんと世界がある。
    
吉野朔実さんの作品にいつだって、くっきりとある、その視線が好きです。少女漫画が少女漫画である意味が、そこにあるような気がする。物語であろうがそこにあるのは複数の人生でしかないのだということを、どこまでも突き詰めて。ただ私は、フィクションではない、生きるということそのものを浴びるしかなくなる。それは、少女にはきっと一番に必要なものだ。少年時代、少女時代。友情より愛情より、まず、人であることを知っていく時間。何より必要なのは、きっと鋭さだよ。ちょっと前のブログにも書いたけれど(http://tahi.hatenablog.com/entry/2016/02/18/013433)、人の弱さやどうしようもなさを、つうーと指先で切り裂いて、ひとつずつとりだして、トリュフの入っていた化粧箱に入れていくような、そうした淡々とした作業。そんな視線をあびていたいときがある。そして、やさしい肯定なんて簡単に忘れてしまうから、どこまでも忘れられない冷たい肯定がほしい日もある。しかたがないよね、なんて、聞きたくはない、はっきりと醜いと言ってほしい。そうして開いた本の中で、思いもよらない美しさに出会えたとき、なにもかもがほどけていく。