萩原朔太郎賞授賞式で話したこと
萩原朔太郎賞授賞式で話したこと。(持っていった原稿。この通りには話せてない。でもおおよそはこうだった!)
この度はありがとうございます。
「詩とは感情の神経を掴んだものである。生きて働く心理学である」という有名な、「月に吠える」の序文が私はとても好きです。感情というものは極めて単純であって、同時に極めて複雑だという言葉も好きです。インターネット、SNSの存在によって、話す言葉のほかに、書く言葉が人にとってとても身近なものになりました。相手がいないところ、誰か特定の人に宛てた言葉ではないものが、自分の心から溢れて、それが「私」という存在の表れになることを、昔より今は多くの人が知っていると思います。そのことを私は美しいと思うし、同時に、昔よりもずっと、自分の感情というものが少しも表しきれないもので、胸の中にはあっても、その外側にはうまく出てこない、言葉にするたびに何かが削れるような経験をする人も増えていると感じます。昔からそんなことはあったはずだけど書き言葉として形になるからこそ、余計にそのもどかしさを意識する人が増えていると思います。そうして、そこで、その人の詩が息づくのではないかと思います。その人が書く詩、その人が読む詩。自分そのものが書かれていると思う言葉でなくても、何かに向けて精一杯手を伸ばし、それこそ神経を掴もうとした言葉が、その人のもどかしさを支えてくれる。それはその人の中にある「詩」の芽生えと思います。
私には、私に見えている星のような光を信じ抜いて、それにひたむきになる瞬間の言葉を書くことしかできないけれど、それが私にとっては詩で、ときにそれが誰かにとっても詩であることを、知ることもできました。それはとても幸福なことで、私は書いた瞬間、そして、読んでくれた人の心に「詩」が芽生えた瞬間を、これからも大切にしていきたいです。
ありがとうございました。